2013年09月15日

Joni Mitchell “Why Do Fools Fall In Love?” “Shadows & Light”(1980)より

夏も終わろうとしている今、爽やかな夏の夜のひとときをイメージさせてくれる一曲を選んでみました。

ジョニ・ミッチェルの1979年のコンサートのライブ音源。パット・メセニーにジャコ・パストリアスといったジャズ・フュージョン畑の一流どころをバックに従えたコンサートで、聴衆も大人。ぱーっと盛り上げていきましょ、というより、独自の道をゆく才女とその仲間達が音楽を作ってゆくのを見守る感じで進行してきた中、ブレイクとして使われたのがこの一曲です。

オリジナルはいわゆるオールディーズの名曲で、ボーイハイテナーヴォイスの甘酸っぱさと、ちょっとのんびりしたドゥワップコーラスがシンクロしてちょっとないわくわく感に満ちています。映画『アメリカン・グラフティ』の冒頭でも使われていました。ジョニにとっても、聴衆にとってもティーンの頃を思い出す懐かしのメロディといったところ。

「ロックンロール!でもやりましょうか?」という“らしくない”MCの後、アカペラグループ、パースウェージョンズを率いて歌うジョニの楽しげな様子が好ましい。オリジナルに引きずられずいつもの彼女らしいマナーで歌っていて、しっかりジョニ・ミッチェルの曲にしてしまいました。また彼女の透明感があって少し乾いた声は、曲に別の表情を与えています。 

そしてこのテイクをさらに魅力的にしているのは、夜の野外コンサートという設定。開放的な空間で、ちょっと意外な選曲にびっくりさせられながらも懐かしの一曲を楽しむ聴衆と、ステージの上のジョニ達との何とも言えないインティメイトな雰囲気が、この曲を特別なものにしています。本業だけでなくPFunk軍団への客演でも知られるマイケル・ブレッカーの、弾けるサックスソロもいい感じ。

聴いてみたい方はこちらでどうぞ。




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2013年09月11日

MAGMA

リーダーのクリスチャン・ヴァンデ Christian Vander がマグマを結成したのは、ジョン・コルトレーンが亡くなった2年後の1969年だった。コルトレーンの死はクリスチャンによると人生の中で最も大きなショックだったようだ。

コルトレーンのあとでジャズは不可能と考え、クリスチャンは独自の音楽を創出することを決意する。もっともクリスチャンのドラムはコルトレーンのドラマーだったエルヴィン・ジョーンズの強い影響下にあり続けるわけだが。音楽全体の影響に関しては、ストラヴィンスキー、ソウル、現代音楽、フリージャズ、オペラ。ロックの分野では、ソフト・マシーン、フランク・ザッパ、ヘンリー・カウなどが挙げられる。個人的な感想を加えると、プッチーニの「トゥーラン・ドット」を聴いているとときどきマグマに聞こえることがある。ジャズとロックとコーラスを融合させたマグマの音楽はズール zeuhl と呼ばれ、ひとつのスタイルを確立しているほどオリジナルなものだ。



私がマグマにハマっていた時期はマグマの活動休止(1983年)の直前だったが、当時は来日公演どころか、ライブ映像を見ることさえかなわぬ夢だった。今や初期のレア映像が youtube にもたくさんアップされている。今見ると怪しげな新興宗教の集会にしか見えないが、不思議な響きを放つマグマの歌は(ドイツ語かスラブ系言語のように聞こえる)、彼らが考案した想像上の言語、コバイア語によって歌われている。彼らはコバイア星からやってきたコバイア星人で、コバイア語によってコバイア神話を歌い継ぐ。これも70年代のサイケカルチャーの産物と言えるが、ヒッピーのような奔放さやトリップ感はなく、あのロゴとともにむしろ強迫的でファッショな印象を受ける。一方でここまでの奇妙奇天烈さや変態ぶりを徹底できるのはフランスならではと言えるだろう。マグマは初期3部作が傑作として知られているが、個人的によく聴いたのは『トリスタンとイゾルデ』(マグマではなくヴァンデ名義によるサントラ)。ドラム、ベース、ピアノ、ボーカルというマグマのミニマム構成だが、徐々に高まっていくテンションに引き込まれていく。

□動画は Paris 1977 - De Futura, ツインドラム編成
Magma Discorama, French TV, June 29th 1970(これも黎明期の貴重映像)
□トップのアルバムは "Atthak" で、ファンク色が強い。ジャケットのデザインは H.R.ギーガーによる。

マグマは1996年に活動を再開したが、近年はいっそう精力的だ(この記事を書いたのは2010年です)。去年は約5年ぶりとなるスタジオ・アルバム『エメンテト・レ(DVD付)』を発表し、去年の5月には来日公演を果たしている。そして今年のフジロックだ。1998年の初来日のときには「マグマを見に行きました」という学生がいて驚いたが、今も若い世代によってプログレの定番として昔の作品も聴き継がれているのだろう。

ところで、日本のマグマと言えば、ドラマーの吉田達也の Ruins だろうか。ベース&ドラムによる二人マグマ。吉田は Fool’s Mate の編集長だった北村昌士の YBO2 のメンバーとしても知られているが、この2つのバンドは平行してよく聴いた。Ruins の音はハイテンションで荒々しい演奏が特徴的。マグマとは全く別のオリジナリティーを持つが、吉田のオペラチックなヴォ−カルがマグマを連想させる。吉田にはもうひとつズール系のプロジェクト、高円寺百景がある。youtube に Rock In Oppositon (この企画まだやってんだ)に出演したときのライブの模様(於フランス)がアップされている。


cyberbloom(初出2010年6月10日)

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2013年03月11日

"Lys & Love" Laurent Voulzy

ロラン・ヴルズィーの才能は紛れもない。現存するポップソングメーカーのなかでは、世界的に見ても有数の存在と言っていいだろう。だが残念ながら、彼は本当に仕事をしない人(あるいは仕事が遅い人)である。オリジナルアルバムは、1979年の Le Cœur grenadine から前作の April まで4枚だけ。その April が出たのも10年前の2001年。発表当時そのすばらしい出来映えに感動しながら、次に新作にお目にかかれるのはまあ10年後くらいだろうと思ったのを思い出すが、実際に10年経った2011年の11月末、やっと新作オリジナルアルバム Lys&Love (リス&ラヴ)がリリースされた。大急ぎで取り寄せて聞いてみたが、これまでのヴルズィーとはずいぶん違ったサウンドになっていた。

ロックバンドのフォーマットは完全に姿を消し、彼の持ち味であったきらびやかなポップセンスも後退し、そのかわりシンセによる「エレクトロ色」と、教会音楽風のコーラス(ヴァンセンヌ城の主塔で録音されたらしい)などに見られる「中世趣味」が前面に出た作品となっている。最初は「あれ?」と思ったが、通して聞くとなかなかの傑作だということが分かった。内容的にも、時空(中世―現代、英―仏―イスラーム世界)を超えた愛をめぐる壮大なコンセプトアルバムである。ポップというより「プログレ」の範疇で語るべき作品という気さえするほどだ...。とはいえ、ポップの名工にして稀代のメロディメーカーであるヴルズィーの美質は失われてはいない。とりわけ、シングルカットされた Jeanne (ジャンヌ)と、ロジャー・ダルトリー Roger Daltrey がヴォーカルで参加している Ma seule amour (我が唯一の愛)の2曲は、天上的な美しさの、宝石のような佳品である。

私は生きているあいだにあと何枚のヴルズィーの新作アルバムに出会うことが出来るのか。Lys&Love が最後の出会いにならないことを心から願う。

‘Jeanne’ http://youtu.be/el0RwzHu7cw

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2013年03月10日

Taisez moi / Didier Wampas

Taisez moiレ・ヴァンパス les Wampas を率いて28年。筋金入りのパンク、ディディエ・ヴァンパス。パリ交通公団の技術職員として長年働き続ける、尊敬すべき労働者ロッカー。Taisez moi (テゼ・モワ)は、彼の初ソロアルバム(タイトルは「オレを黙らせろ」という意味に解していいと思うが、フランス語の用法としては間違ったもの(のはず))。泣かせる傑作だ。60年代風バンドサウンドに乗せて、辛辣なのかふざけているだけなのかよくわからない、いつもながらの歌詞を飄々と歌う。レ・ヴァンパスのときとくらべいくぶんアコースティック寄りのバックの音のおかげで、ヴォーカルもリラックスした感じに聞こえ、肩の力の抜けた作品になっている。

収録曲のなかで一番おもしろかったのは Chanteur de droite (右派の歌手)という曲。ミシェル・サルドゥ Michel Sardou(右派歌手の超大物)をモデルとし、この歌手が左派から忌み嫌われる現実を批判的に語り、同時に、売れるため左派にすり寄る凡百の歌手たちを揶揄している(あるインタビューによれば、ディディエは左派の集会でわざわざサルドゥの歌をアカペラで歌い、ブーイングを浴びたらしい。そしてそれをきっかけとしてこの曲を構想したらしい)。党派性とは無縁のところですべての気に食わぬものに攻撃を仕掛けてゆく彼の子供っぽい、しかし自由な精神が発揮された曲だと思う。他にも La propriété c'est du vol (所有は泥棒だ)とか Punk Ouvrier (労働者パンク)といった痛快な曲が満載。最後の Ainsi parlait Didier Wampas (ディディエ・ヴァンパスかく語りき)では、オレを黙らせた方がいい、でないとこれからも陰険にふるまっていろんなことに文句を言い続けるぜ、と堂々と宣言して去っていく...。

今後彼が成熟して大人の歌手に変身するようなことは間違ってもないだろう。死ぬまで、語の本来的な意味での「パンク」であり続けてくれることと思う。




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2013年02月11日

“At Last” Etta James (1961)

「希望」を感じる曲はないか、と思いめぐらして浮かんだのがこの曲。先頃亡くなったエタ・ジェイムズが20歳そこそこで歌った、オールディーズ感たっぷりなバラードです。

オリジナルのレコーディングは1940年代。グレン・ミラー楽団でした。エタが吹き込んだ当時でさえ懐メロだったわけですが、彼女の尋常じゃないパワフルな歌声は、歌に新しい命を吹き込みました。

夢に見た相手(希望と読み替えてもいいかもしれません)とようやく巡り会えた・・・喜びにうち震える瞬間を歌った甘い内容の歌です。が、エタならではの直球ど真ん中!な真っすぐさとメロディを浸食するブルージーなにじみは、歌に独特の陰影と狂おしさを与えています。「あなた」を求め焦がれて必死に手を伸ばす気持。「あなた」とついに向き合った時にわき起こる胸のざわめき。恐れ。不安。あれこれ入り交じった感情がふつふつとわきたっているのが聞こえます。

この陰影には、エタ・ジェイムズという一人の女性が歩んできた人生の複雑さも関係しているかもしれません。1930年代末の西海岸に黒人の不良少女の私生児として誕生。父親は「白人」というということしか知らない(母親は「あんたの父さんは伝説のハスラー、ミネソタ・ファッツだ」とうそぶいていたそうだけれど)。親の愛とは縁遠く、15才で年をごまかして芸能界入り。生きるためにステージに立ち続け、彼女を認めてくれた新しいレーベルのために吹き込んだのがこの曲でした。それから他界するまで50年余り。警察のごやっかいになるなど人並み以上の浮き沈みを経験することになりましたが、エタは歌うことを止めませんでした。彼女はインタビューでこう語っています。「歌うとね、ため込んできたいやなこと、あれやこれやをばーっと吐き出せるの。」新しい場所で、歌手として再スタートを切った若いエタのいろいろな思いが、そっくりそのままこの曲に落とし込まれているようにも聞こえるのです。

この曲は、ハッピーエンドではなく、始まりの曲でもあります。ついに私のものとなった「あなた」と手を取り合って、さてどこへ行きましょう?不安と高揚が入り交じるスタート。



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2013年02月05日

The Spinners "It's a Shame”

6月らしい、しっとりとした雨の日に、それにふさわしい曲をチョイスしよう・・・などと呑気にしているうちに、いつのまにか夏の入り口がもうそこに!(いかなる音楽ともマッチしない、怖くなってくるほどのドカ降りばかりだったのも原因?。)

そこで、今の気分にグッと来る、熱いけどヒンヤリ感もある曲を選んでみました。アトランティックに移籍する前の実力派ソウル・グループ、スピナーズの名曲。ペンをとったスティービー・ワンダーのいかにも彼らしいメロディも結構ですが、まずのっけからもっていかれるのがイントロの何とも涼しげなギター。後でも繰り返されるこのリフが、熱波の中で食すアイスキャンデーみたいに、ヒンヤリ気持よくさせてくれます。

曲そのものはこれでもかというほどノリノリ。バックをつとめた、モータウンが誇るファンク・ブラザーズのお仕事ですが、特に目立っているのがうなりをあげるJ.ジェマーソンのベース。自在に、華麗に展開するベース・ラインは、この曲の影の主役。ドキドキさせられます。

そしてガッツ溢れるリードヴォーカルの、ちょっぴり下世話な声がいい。ムラムラと、夏の濃度をあげてくれるんです。
 
クーラーが利いた部屋なんかではなく、暑さの残る宵の頃に屋外で聞くと最高でしょうか。

聴いてみたい方はこちらでどうぞ。 

http://youtu.be/XHXFOUQBRHE


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2013年01月26日

'Wall Street Part of Town' Ry Cooder

ライ・クーダーがニューヨークのズコッティ公園で頑張っていた Occupy Wall Street の面々に賛同して作った曲。明るくて、これ以上ないぐらい明快で老いも若きも口ずさめる、理想的なプロテストソングです。



ここで歌われているのは、99%派の怒りの表明ではなく連帯感。「またトラブルに見舞われたけど、今度は一人じゃない。仲間がいるんだ。」

Occupy Wall Street について書かれたものを追っかけてきましたが、あの公園に集まった人をまとめていたのは、この共感、つながりではないかと感じています。一緒にがんばろう、と遠くから呼びかけるのではなくて、私も実はしんどいんだよ、と握手する気持。これからはこの気持が大事なのではないかと、個人的に思うのです。

デビューしたころから、Hard Timesを生きたアメリカの人々に親しまれたシンプルな歌を取り上げてきたライ・クーダー。そんな彼だからこそ作れた一曲。日本語でこんな曲が生まれるといいのですが。


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2013年01月22日

'I See a Darkness' Bonnie "Prince" Billy

“I See a Darkness” Bonnie “Prince” Billyたまに、ふっと、ほの暗い音楽を聴きたくなることがある。滅入っているから、といったそれらしい理由は何もない。のどが乾いたから水分補給するように、ただ体がそういった音を欲している。

そんな時に手がのびるのがこの曲。静かで、内なる闇と死についての歌なのだけれど、自分の奥底を凝視するようなはげしさはなく、少ない音数の間はふしぎな浮遊感と高揚に満ちている。静かで、うすら暖かい暗さの中に沈み込んでいくような、何とも言えない心持ちになる。

子供のころ読んだ絵本に出てきた、泥につかるのが大好きな子豚のことを思い出す。お気に入りのやわらかい泥の中に、ずずーっと静かに沈んでゆく豚の恍惚の表情は、この世にはコトバでは言い尽くせない(アブナい?)心地よさというものがあることを教えてくれた。この曲にすっぽり包まれるとき、あの豚の気持がなんとなくわかるような気がする。そういった意味でも、真にパーソナルな音楽だと思う。秋の夜長に、素に戻れる空間で聴きたい。

ジョニー・キャッシュがカバーしたバージョンも有名だけれど、言霊の人キャッシュの説得力のある歌ではなく、オリジナルを取りたい。

http://youtu.be/LAriDxTeed8


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2013年01月19日

'Make No Mistake' Keith Richards from "Talk Is Cheap" (1988)

寒くなってくると聴きたくなるのが Hi Sound。70年代のアメリカ南部が誇るソウル・ミュージックの名門レーベル、Hi Recordの創り出したスタイルです。アッパーとは無縁の、ゆったりもっちゃりとしたグルーヴ。ソフトなストリングスと優しい女性コーラス。適度にくたびれてしっくり肌になじんだ部屋着のように包み込み、ダメダメな自分でさえも忘れさせてくれます。単に「心地よい」ではなく、ぴりっとアクセントを添えるホーンセクションに、ひとつまみのブルージーさも加えられているのがまた妙味。どうだカッコいいだろうと鼻うごめかせたくなるタイプの音楽では決してありません。時々ひっぱりだしては「はああ」といい気分にさせてくれる、そんな音楽です。

あのキース・リチャーズがこの音楽のファンらしい…と知ったのは、初のソロアルバムに収録されたこの曲を聴いたから。いやんなっちゃうくらい、まんま、Hi sound です。Hi Record の総帥ウィリー・ミッチェル率いるメンフィス・ホーンズを呼んできてホーンアレンジもお願いしているのだから、ホンモノ間違いないのですが、オルガンの入り方とか、メロディラインとか、知ってる人は「お好きですなー」と肩のひとつもたたきたくなるぐらいの徹底ぶりなんです。

しかし、キースはミックではないのであって、お世辞にも上手な唄うたいとはいえない。枯れた声質からしてこのタイプの音楽を歌うのは無謀と思ったものですが、意外とキマっています。過剰に甘くならず、緊張感の糸が一本通って、かえって音的にもおもしろくなりました。恥ずかしそうに、でもうれしそうにマイクの前に立つあのキースの顔が容易に想像できちゃうのも楽しい(一度やってみたかったんでしょうね…夢が叶った!というひとときだったかも)。武骨な声に優しく寄り添うサラ・ダッシュのふくよかな声もいい感じ。

聴いてみたい方はこちらでどうぞ。

https://youtu.be/Tuo_KqpZEwc


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2012年05月29日

Mike Oldfield "Ommadawn"

マイク・オールドフィールドのファーストアルバムは「チューブラ・ベルズ Tublar Bells 」。それはチャールズ・ブランソンのヴァージン・レーベル創業期(今は航空会社として有名)の記念すべきアルバムでもある。全英チャート1位を記録し、これまでイギリスで34番目に売れたアルバムでもある。確かにイギリス人の郷愁をかきたてるような音だ。さらにアルバムの導入部が本人の意図に反してホラー映画「エクソシスト」のサントラに使われ、不本意な形で彼の知名度を上げたことでも知られている。

OmmadawnHergest Ridge

マイク・オールドフィールドはプログレッシブ・ロックの範疇に入れられることが多いが、ひとりであらゆる楽器を演奏して、ダビングを重ねながら作品を作り上げる元祖多重録音ミュージシャンである。アメリカではニューエイジ系の先駆者として数えられているようだ。彼の3枚目のアルバム、「オマドーン」にはタイトル曲一曲しか入っていない。CDではPart 1 Part 2 と2楽章に分かれているが、もとはLP盤のA面とB面だった。

このアルバムはケルト音楽の最も強い影響下にあって、イラン・パイプ uilleann pipes というアイルランドのバグパイプが使われている。このアルバムは2枚目と同じくHergest Ridge(ハージェスト・リッジ)で録音されている。そこはマイクが住んでいたヒアフォードシャーとウェールズの境にある丘の名前で、2枚目のアルバムのタイトルにもなっている。マイクはチューブラベルズの成功のあと、人の目を避けて田舎に引きこもっていたのだった。

ジャケットにも写しだされている優しい目をした内向的な青年の隠遁生活が伝わってくるような、途切れのない数十分の音の織物だ。ワーズワースの詩を髣髴とさせるような牧歌的な風景が目の前に広がる…雪解けの冷たい水が流れる小川を渡り、薄暗い森を抜け、突然開ける草原を横切って、どんどん歩き続ける…

アコースティックな楽器の類だけでなく、エレクトリック・ギターも使われているが、音色がうまく溶け込んでいてあまりエレクトリックな感じがしない。それでいて情熱をひたすら内側に向ける心の動きを直接映し出すようにエモーショナルで、じわじわと聴く者の魂を高揚させていく。ミニマルなアフリカン・ドラムとも絶妙に絡んでいて、それらが生み出す土着的なグルーブは土の下から萌え出る春の胎動のようだ。

広大な平原でひとり佇み、強風に流されていく雲を見上げているような2枚目の「ハージェスト・リッジ」も甲乙つけがたいアルバムである。つまり3部作まとめておすすめ。


cyberbloom

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