2010年03月30日

村治佳織

Viva!RodrigoJR神戸駅から歩いて10分ほどのところに神戸文化ホールという音楽ホールがある。財団法人神戸市演奏家協会の運営する建物で、クラシックのみならず伝統芸能やポピュラー音楽のコンサートなど様々な出し物を催す市民会館である。

しかし市民向けホールといっても決して侮ってはいけない。ここは時折、海外の演奏家を招いた質の高いコンサートを企画する。例えば、昨年(2007年)1月8日に開かれたベルリン・フィル八重奏団のコンサートは秀逸なものだった。ベルリン・フィルの管弦楽器の首席クラスのメンバーにて構成されるこの楽団の演奏が、東京や大阪の大ホールではないところで鑑賞できるというのは素晴らしいことである。このクラスの楽団は場所がどこであろうと手を抜いた演奏はしない。上原彩子をピアノ独奏に招いたシューベルト作曲ピアノ五重奏曲イ長調『ます』も優れた出来であったが、やはりフルメンバーによる演奏は出色のものであった(シューベルト作曲八重奏曲ヘ長調D803)。この演奏家たちによる類い稀なる音色は確実に観客の心に刻み付けられたと思う。このコンサートは、同年の5月17日、大阪のシンフォニー・ホールで「ストラディヴァリウス・サミット」と銘打たれたベルリン・フィル弦楽合奏団(ヴィヴァルディ作曲『四季』など)の演奏をも超える鮮やかな出来栄えであったと思う。

今年はこのホールは春から秋にかけて海外の歌劇場によるオペラ作品を三本上演するという(ロッシーニ作曲『シンデレラ』[6月、スポレート歌劇場]、『リゴレット』[9月、ウィーンの森バーデン私立歌劇場]、プッチーニ作曲『トゥーランドット』[10月、ウクライナ国立歌劇場])。もちろん、これらに兵庫県立芸術文化センターの企画するプログラム(メトロポリタン歌劇場、パリオペラ座)ほどの豪華さはない。だが、それでもこうした大胆かつ多彩な企画を実現してしまうこのホールの熱意とそれを支える市民の音楽熱には感動させられる。神戸とはこういうことが許される街なのだ。

さて、そんな神戸文化ホールであるが、この3月は注目すべきリサイタルが数多く開催される。まず、3月9日(日)は森麻季(ソプラノ)と横山幸雄(ピアノ)のデュオ・コンサート。曲はドニゼッティ、プッチーニの歌劇からアリアなど。森は近年最も注目を浴びるソプラノ歌手で、その透き通った、そして伸び上がるような歌声は一度聞いたら忘れることは出来ないだろう。最近はテレビなどでも彼女の歌声を使ったメロディが流れることもあるので、それと知らずに聞かれた方も多いのではないだろうか。その彼女が横山という手練のピアノの弾き手を伴奏者に得てリサイタルを開くのだから、聞きに行かない手はないだろう。恐らく、素晴らしいコンサートになるのではないだろうか。

加えて、3月20日(木)は村治佳織のギター・リサイタルが開かれる。曲はロドリーゴ、タレガなど。神戸では10年ぶりのコンサートだとのこと。情緒的なアンドレス・セゴヴィア風ではなく、理知的なジョン・ウイリアムスの系譜に属すると思われる彼女のギターは、それでいて端正できらめくような音を響かせる。また、彼女の演奏会スケジュールは大変なもので、海外のオーケストラとの共演を何度も挟みながら、日本全国を巡るコンサート活動も留まる事を知らない。それだけでも大変なものだが、同時に彼女は常に新たな可能性を追い求めて演奏を続けているという印象を与える。

あれは10年ほど前だったろうか。当時、パリに留学中だった村治が作曲家ロドリーゴを訪ねるというドキュメンタリーがテレビで放送されたことがある(下に動画あり)。ギター音楽の珠玉の一品、『アランフェス協奏曲』の作曲者もこのとき既に90歳を越えていて、コミュニケーションも容易ではない状態であったのだが、カメラはこの作曲家から何かを感じ取る村治の姿をはっきりと捉えていた。この撮影の数ヶ月後に亡くなったロドリーゴから村治が何を受け取ったのか、それは演奏を聴いてみれば分かるであろう。村治はそれ以来、ロドリーゴを重要なレパートリーにしている。

これ以外にも3月の神戸文化ホールは熊本マリのピアノ・リサイタル、山形由美のフルート・リサイタルなど、中堅、ベテランの女性演奏家によるリサイタルが数多く開かれる。多彩で魅力的な演奏会を次から次へと開くこの音楽ホールは、神戸市民のみならず関西の音楽愛好家には極めて重要なホールの一つと言えるのではないだろうか。このような市民ホールも決して侮ってはならないのだ。


□神戸文化ホール http://www.kobe-bunka.jp/hall/

KAORI MURAJI REND VISITE A J.RODRIGO(TV documentary)


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不知火検校(2008年3月9日)

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2010年03月29日

Liberation Music - Silence

The Ballad of the Fallenこの曲はリベラルな立場でメッセージ性の強い真摯な作品を発表してきたモダンジャズ・オーケストラ、リベレーション・ミュージック・オーケストラのセカンド・アルバム“The Ballad of the Fallen”に収録されています。
 
曲の構成はいたってシンプル。音数の少ない、静謐な印象のモチーフとなるメロディーを10回繰り返して終わり。ただし、トランペットソロによる、祈りを思わせる静かな導入から、メロディーを繰り返すたびに一つ、また一つと楽器が加わるしかけになっています。重ねられた響きは、サクソフォンのような官能的な「声」も混じってふくよかさを増し、いつしか血が通った豊かなうねりに変わります。オーケストラの全ての楽器が1コーラスをクレッシェンドで合奏した後、ほとんどの楽器がふっと気配を消し、最後に取り残されたピアノがワンコーラスを弾き、曲は終わります。
 
リーダーであるベーシスト、チャーリー・ヘイデンはライナーノーツでこうコメントしています。「Silence は、人生におけるあらゆる事の始まりと終わりに存在するものだ。」この曲は、まさにその言葉そのものです。聴き手はひとつの曲の「始まり」と「終わり」に立ち会い、最後のピアノソロが終わった瞬間、聴き手は文字通りの“silcence”と向き合うことになるのです。
 
最後の一音が消えたときの瞬間は、何とも言えない、複雑な気分にさせられます。支えがはずされ、ぽつんと一人放り出されたような頼りなさでしょうか。しかし、そんな胸をざわめかせる、不安なSilence こそが、また新しい音を、響きを生む場でもあるのです。
 
※”The Ballad of the Fallen”は、iTunes storeでは、Carla Bley & Charlie Hadenのアルバムとして登録されています。


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2010年03月27日

Sarah Vaughan "Crazy and Mixed Up"

3曲目「枯葉」でどよどよ!ここらでボーカルなど。といってもスキャット。声って楽器なんやな。サラ・ボーンの顔ジャヶ、上沼恵美子とウーピー・ゴールドバーグを足して1.9で割って小数点以下切り上げた感じやわ。名曲「枯葉」はしずじずの演奏が定番やけど、これ、ぶっとんだ「枯葉」になってますよ。っていうか、「枯葉」はどこ?素人には原曲拾えんよ。アップスピードで低音から高音まで変幻自在。関係ないけど女性ラッパーってなんであんまりいーへんやろ。これはレコードしか持ってない、どなたさんか、プレイヤーを我に。

「枯葉」は仏語で Les Feuilles Mortes。原曲はシャンソンの定番やけど、今の学生さんたちは誰も知らへん。「枯葉」の定番を挙げてみると、まずはマイルス。といってもレコード会社のからみでマイルスがリーダーではなく、キャノンボール・アダレー名義で出てるやつ"Somethin' Else"は、みなさんどっかで聴いたことあるんちゃいますか。ピアノだとエバンス、キース・ジャレット、チック・コリアなんかも定番。あったかい「枯葉」やと、カーティス・フラーの"South American Cookin' of Curtis Fuller"に収録してるんがええかな、フラーのトロンボーンとズート・シムズのテナーはおこたで緑茶をズズーと啜りながら居眠りしたくなりますわ。ええっすよ。


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2010年03月24日

Jimmiy Smith "Crazy! Baby"

うーんとね、あちきはこのひとの「チャンプ」という曲でジャズに開眼したんやったっけ。ハモンドオルガンってハレーム音楽ご用達の楽器やったけどジミー・スミスの荒技でジャズ楽器として認知されるようになったなぁ。ブルー・ノートのジャケットは2色刷りがほとんど、なんでかいうとお金なかったからやね。でもこん人はオールカラーでそんだけ稼ぎ頭という証ですわ。ちょい泥くさいけど、音量下げたらなんとかなるんちゃう。このアルバムでは「チュニジアの夜」がかっちょええけど(惜しいことにギターが最後にミスってる)、カフェで聴くんやったら「マック・ザ・ナイフ」かも。ベース不在はフットペダルで低音リズムを弾いてるから。

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2010年03月23日

MC SOLAAR

Qui Seme le Vent Recolte le Tempoフランスで最も有名なラッパー。1969年、セネガルのダカール生まれ。70年代にはフランスのバンリュー(郊外)に住み着いていた。85年にフランスに帰化。

1991年に発表された MC SOLAAR の1枚目、QUI SEME LE VENT RECOLTE LA TEMPO は、かなりショックな体験だった。それまでヒップホップにはあまり馴染めなかったし、アメリカのパブリック・エナミーくらいしかしなかった。ヒップホップもフランスだとこんなにオシャレになるのかと感心した。他のフランスのハード系のラップを当時あまり知らなかったせいもあったのだが、Nique ta mère(=Fuck your mother )とか、パリを爆弾で破壊するとか、マルセイユは理想の都市だとか、自分は火星からの来訪者だとか歌っていたラップとは一線を画していた。

音もジャズっぽいし、ラップのスタイルがクール(文字通り暑苦しくない)だし、何よりも流れるような韻の踏み方がカッコよかったのだ。5曲目の L'Histoire de l’art のラップを真似ながら、フランス語の滑舌を良くする訓練をしたものだ。特にリフレインをよく口ずさんでいた。

Les salauds salissent Solaar cela me lasse mais laisse les salir Solaar, sur ce salut!

Armand est mort という、失業して、離婚されて、ホームレスになって、喧嘩に巻き込まれ拳銃で撃たれて死んでしまった男の曲があるが、あまりに洗練されていて、まるでマーヴィン・ゲイのように聞こえる(音ネタが使われているのかも)。名曲 Caloline は一時パリ中でかかっていて、あちこちのカフェやブティックで耳にした。ラップの中で女性をドラッグになぞらえているが、Caroline はドラッグそのものという説もある。

Elle était ma drogue, ma dope, ma coke, mon crack, mon amphétamine, Caloline

バンリューの現実を告発したり、警察や権力を攻撃するようなラップの内容よりも、ソラーはむしろ純粋に言葉による表現を志向している。ことわざやクリシェをパロディ化し、シラブルと韻を自在にあやつる高度な技巧は賞賛に値するだろう。それゆえ、ヒップホップの系譜よりも、レオ・フェレ、ジョルジュ・ブラッサンスなど詩人=ミュージシャンの系譜に数えられ、とりわけ「コーヒー色のゲーンズブール」と呼ばれている。このように文学的に洗練されたソラーのラップはインテリにも支持され、ル・モンド紙がアルバムや発言を取り上げたり、高校や大学でソラーのラップが授業の題材になったりしている。

そういうソラーを政治家も放っておかなかった。1994年に国民議会の演説で当時の文化大臣、ジャック・トゥーボンがフランス語の擁護者としてソラーの名を挙げたのは有名だ。移民系のミュージシャンによって、フランス語の顕揚とナショナリズムが担われるというのも皮肉な話だが。演説の一節を最後に引用しよう。

みなさん、MC Solaarをお聞きください。彼以前にはボビー・ラポワントやボリス・ヴィアンがやろうとしていたことを、今度は彼がフランス語でやるのを聴くことになるでしょう!

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フランス語がわからなくても気軽に楽しめます。


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2010年03月22日

Robert Wyatt "Nothing Can Stop Us"

Nothing Can Stop Usロバート・ワイアットは1945年イギリス生まれ。もともとソフト・マシーン、マッチング・モウルというジャズ・ロックグループのドラマーでしたが、73年に転落事故に遭って下半身不随の身となりました。車椅子での生活になってから、彼はソロ・シンガーとして新しい音楽人生をスタートさせ、今でもすばらしいアルバムを発表し続けています。

彼の魅力は何と言ってもその歌声です。髭もじゃのおじさん、という風貌からは想像できない、まるで天から降ってきたかのような澄んだ声を聴くと、月並みな表現ではありますが「心が洗われる」気分になります。素朴でゆったりとした音をバックに流れてくる彼の清らかな声を、秋の夜長に電気を消した部屋のなかでしんみりと聴くのは感慨深いものです。

これまで数多く発売された彼のアルバムのなかで選ぶとすれば1982年発売の「ナッシング・キャン・ストップ・アス」でしょうか。かつて ミュージック・バトンのエントリーで、「思い入れのある曲」として選んだ At Last I Am Free はこのアルバムに収録されています。彼はジャズの名曲をカヴァーすることも多く、このアルバムでも Strange Fruit (奇妙な果実)を歌っていて、ビリー・ホリデイのそれとはまた異なった不思議なひとときを味わわせてくれます。


Robert Wyatt - At last I Am Free

■「ヒズ・グレイテスト・ミッシーズ −ロバート・ワイアット30年の軌跡」(ベスト盤。At Last I am Free も収録)



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2010年03月20日

リマスター発売記念 私の好きなビートルズ T

2009年9月9日、ザ・ビートルズの全オリジナル・アルバムがデジタル・リマスターされ、全世界で同時発売された。発売を記念していろんなイベントや企画があったが、うちのブログもそれに便乗してビートルズのベストアルバムとベストソングを選んでみることにした。今回の選者は Manchot Aubergine さん、bird dog さん、GOYAAKOD さん、cyberbloom の4名。

ビートルズは国境を越え、世代を越えて共有されている数少ない音楽のひとつでもある。かつて教養と呼ばれたものはそれ自体の価値以上に、多くの人に共有されていたから意味があった。コミュニケーションのチャンネルとして機能していたのだ。いまやそれに変わるものはビートルズであり、宮崎駿であり、iPodなのだろう。

Manchot Aubergine 編
ベストアルバム:REVOLVER
リボルバーレノンのキャリアのピークといえる名盤。RUBBER SOULもSGT.PEPPER'SもABBEY ROADのB面もいいけれども、粒ぞろいという意味では、本作が一番。レノンの代表曲と言っていい"She Said, She Said"、"Tomorrow Never Knows"の2曲を筆頭に怒濤のような名曲の数々。マッカートニーの曲では"For No One" "Here,There and Everywhere" "Got to Get You into My Life"が出色。"Eleanor Rigby"もいい(この曲は一般に「マッカートニーもの」と認識されているが、実はことのほかレノンの貢献が大きい)。

ベストソング:No Reply
意表を突くコード進行、ハーモニーのすばらしさ、ほろ苦さをたたえたストーリー性のある(しかも、かわいい)歌詞。レノンの名曲。マッカートニーの曲で一番好きなのは"Lovely Rita"。曲全体が日光を浴びた雪の結晶のようにキラキラきらめいている、超一流のポップソング。ついでにいうと、カラオケでの私の愛唱曲は"She's a Woman"と"Oh! Darling"。

bird dog 編
ベストアルバム:RUBBER SOUL
ラバー・ソウルビートルズは、子供の頃から全アルバムを聴き続けてきました。なので、どれか1枚というのは難しいのですが、なじみの深さからRubber Soulを選びました。

ポールのベースがDrive My CarやThink For Yourselfで暴れまくり、ジョージがNorwegian Woodでシタールを初めて披露し、ジョンがGirlでため息を歌の一部にしてみせ、リンゴがWaitで激しいタム連打と焦燥感あふれるタンバリンを聴かせる、という風に、それぞれのミュージシャンシップが遺憾なく発揮されているのもいいですし、Nowhere ManやIn My Lifeでジョンが一級の作詞家であることを証明したのも、このアルバムの特筆すべきところでしょう。コード進行やベースラインなど、タイトル通り、全体にソウルミュージックからの影響が色濃い作品だと思います。

またThe Wordの見事な三声ハーモニーや、Girlの「ティティティティ」、You Won’t See Meの「ウーラッララ」というユニークなコーラスなど、ビートルズのトレードマークであるコーラスアレンジも冴えています。(ただし、「ウーラッララ」に関しては、同じパターンをNowhere Manでも使い、しかも曲順が続いているのは、アイデアの使い回しを極力避けたビートルズらしからぬ失態だ、とイアン・マクドナルドが著書『ビートルズと60年代』のなかで批判しています。そう言われてみれば確かにそうで、おそらくレコーディング締切に追われたためでしょうが、アルバムの完成度という点でやや残念な部分です。)

ステレオ録音は、まだ過渡期であるため、やや分離が悪い部分もありますが、これ以降はライブで再現不可能な音像の追求へ邁進していくことを思えば、これはロックンロールバンドであることをまだやめていないビートルズの最後のアルバムという気がします。そして、やはりビートルズはロックンロールバンドとして、自分のなかでは輝き続けていることを考えると、このアルバムに対する自分の愛着も説明できるように思うのです。

ベストソング:You’re Going To Lose That Girl
聴くたびに胸を締めつけられるのは、Golden SlumbersからCarry That Weightに続くメドレーですが、これはビートルズの終り(それは同時に彼らの青春の終りであり、キャリアの頂点の終りでもありました)をそのたびに確認するからで、曲としての完成度やロックバンドとしての輝きとは、少しずれたところに感動があります。

ヘルプ!ロックンロールバンドとしてのビートルズ、というところにこだわれば、案外You’re Going To Lose That Girlあたりがベストトラックかもしれません。なんといっても、出だしからジョンのヴォーカルが冴えていて、お得意のファルセットもきれいに出ています。ポールとジョージが一つのマイクでコーラスを録音しているのも(少なくとも映画『ヘルプ!』ではそうなっています)、ライブのビートルズを彷彿とさせます。ジョージのギターソロも、この時期にしてはかなり良い出来と言えるでしょう。リンゴのドラムスは、曲への入りが最高にかっこいい。ボンゴもうまく絡んでいます。アレンジはシンプルですが、これ以上どこを工夫して欲しい、ということのない、4人だけで作り上げた最高のロックンロールだと思います。

cyberbloom 編
ベストアルバム:MAGICAL MYSTERY TOUR
マジカル・ミステリー・ツアー私がロックを聴き始めたのはハードロック(特にツェッペリン)からで、その後すぐにプログレにはまった。そのせいかビートルズは甘ったるい安易なロックだという先入観が抜けなくて、「クリムゾン・キングの宮殿」はビートルズがやろうとしていたことだ、というような批評を読んで、そんなわけないやろって頑固に思ってた。

ところがどっこい大学生になってビートルズ好きの彼女が聴けというから聴いた「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」にびっくり。ビートルズってこんなことやってたの?60年代後半から70年代前半のサイケ系をマニアックに聴いてたのに肝心なものを聴いてなかった。不在の中心の周囲をぐるぐる回っていたわけだ。それでも、ピンク・フロイドが裏「サージェント」とも言うべき「夜明けの口笛吹き」(⇒当時のアンダーグラウンドな雰囲気を伝える鳥肌モノの映像)を隣のスタジオで録音していて、様子をのぞきに行ったポールが「彼らには打ちのめされた」と漏らしたという逸話には救われた思いがしたものだ。

その後、アルバムとしてよく聴いたのは、「マジカル・ミステリー・ツアー」。「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」に代表される、サイケな浮遊感ときらめくポップセンスが融合した名曲が揃っている。「ハロー・グッバイ」や「フール・オン・ザ・ヒル」なんかも大好きだが、やはり「ストロベリー」のイントロのメロトロン(フルート)にしびれてしまう。

ベストソング:A Day in the Life
サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドこの前、あるアーティストの「ジェラス・ガイ」のカバーを聴いたとき、ジョンの曲だとすぐに思い出せずに、何だかビートルズの A Day in the Life と似た曲だなあと思った。どちらもジョンのボーカルとピアノが特徴的だが(A Day の中間部はポールが歌っている)、もしかしてコードパターン(GとかEm)が似てる?A Day in the Life は60年代サイケの金字塔、「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の最後をしめくくる曲である。ビートルズの中でいちばん好きという人も意外に多い(坂本龍一もこれを挙げていた)。

世界を傍観するような淡々とした歌もいいが、やはりあのコーラスの部分にグッとくる。もっともこのアルバムは曲の切れの目のない史上初のコンセプトアルバムで、これをひとつの曲として捕らえるのは間違っているのかもしれない。実際、テーマ曲のリプライズ(これもカッコいい!)のあとに続き、めくるめくホットなインナートリップを最後にチルアウトするようなところも、この曲の魅力を高めているのだろう。この曲の最終コードはある音楽評論家によると「音楽の歴史の中でも最も決定的な最終コード」ということらしいが、曲の途中でドロドロしたオーケストラの音が入るのも印象的だ。表向きのコンセプトは架空のブラス・バンドのショーという形式になっているが、裏のテーマは Lucy in the Sky with Diamonds だ。ノリピーとオシオ君のおかげで風当たりの強いテーマになってしまったので、深入りはやめておこう(笑)。しかしながら、アニメーション映画『イエロー・サブマリン』での「ルーシー」とアニメーションの組み合わせは怖いくらいの映像&音響ドラッグ。脳みそがとろけそうになる。

フレンチ・ブログとしては、bird dog さんが挙げている「ラバー・ソウル」を推奨せねばなるまい。唯一フランス語で歌われている「ミシェル」、現在フランス人監督によって映画化されている村上春樹の小説のタイトルになった「ノルウェイの森」が収録されている。

GOYAAKOD 編
王道ではなく脇道ばかり歩いて音楽を聴いてきたものにとって、ビートルズとはさしずめ世界文学全集のようなもの。ということで、コメントする立場にはないのですが、ビートルズの音楽が一人歩きして「化け」たケースを、この場を借りて勝手に紹介させて頂きます。

カントリーのコーナーにアルバムが並べられているエミルー・ハリスが、70年代にレコーディングした”Here, There and Everywhere”は、名曲である原曲とはまた違う場所へ連れていってくれます(アレンジはニック・デカロです)。

☆青い部分は youtube へのリンクになっているので、いろいろ視聴してみてください。よかったら、みなさんのベストアルバム、ベストソングをコメントに書き込んでください。
ビートルズ国民投票の結果発表!(さらに結果を見る)
 ベストアルバム「アビイ・ロード」
 ベストソング「レット・イット・ビー」
「あの人に聞く、ザ・ビートルズと私!」(日本のアーティストが選ぶビートルズ)



★当エントリーは9月9日に main blog に掲載したものに加筆修正したものです。


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2010年03月18日

MAREVA GALANTER マレーヴァ・ギャランテール

Youtubeでフランス・ギャルの「娘たちにかまわないで Laisse tomber les filles」のビデオを探していたら、カバー曲らしいビデオがリストにあった。Mareva Galanter なんて名前聞いたことないなあと思いながら再生ボタンをクリックしてみた。最初はマジで自分の知らないフレンチ・アイドルが存在していたのかと思った。ビデオの60年代風のチープな作りにまんまと騙されてしまったのだった。ガレージのような独特なアレンジと、お下げ髪のマレーバのコケティッシュな仕草に一発で魅せられてしまった。誰が何と言おうと、これはフランス・ギャルのベスト・カバーだ。



マレーヴァ・ギャランテール(Mareva Galanter)。1979年2月4日、タヒチ生まれ。彼女の名前は「流れ星」を意味するらしい。1m78の長身とエキゾチックな美貌で、14歳からモデルとして仕事を始める。1998年のミス・タヒチに次いで、1999年にはミス・フランスに選ばれる。その後、テレビのバラエティー番組の司会者も努めるが、中でも M6 AWARDS のプレゼンテーターとしての仕事が代表的。女優としても、映画やテレビドラマに出演。パリ在住で、デザイナーのジャン・カステル・ド・カステルバジャック Jean-Charles de Castelbajac(Max Maraの仕事で有名)と生活を共にしている。彼はマレーヴァにアルバムで曲を提供し、マレーヴァは彼のイメージモデルの仕事もしている。

そして問題のデビュー・アルバムは2006年に発表された(翌年の12月にはRambling Records から日本盤が発売)。タイトルは「ukuyéyé」で、ウクレレとイエイエをくっつけたもの。ウクレレはマレーヴァが小さいころタヒチでいつも耳にしてた楽器だ。イエイエはフランス・ギャル、フランソワーズ・アルディ、シェイラに代表されるフランス60年代のロックシンガーを指すが、要はイエイエのリバイバル・アルバムだ。思い出深いことには(といってリアルタイムで聴いたほど年じゃありません)、伝説のフレンチ・ロリータ、ジャクリーヌ・タイエブ Jacquerine TAIEBの曲、「7 heures du matin」「On roule à 160」もカバーしている。

2枚目のアルバム「Happy Fiu」(2008年)は Little Barrie というバンドと組んでイギリスで録音されている。プライマル・スクリームのマーティン・ダフィーも参加。


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2010年03月16日

Dusty Springfield ”Dusty In Memphis”

Dusty in Memphis1966年から翌67年にBBCで放映されたダスティ・スプリングフィールドのワンマンショーのDVDが数年前にリリースされています。ブリティッシュ・インベンション女子代表として世界的なヒット曲(「この胸のときめきを」)にも恵まれ、名実ともにイギリスでナンバーワンの女性歌手であった、「絶頂期」を記録した貴重な記録です。

映像はモノクロですが、20分弱の番組のために毎回複数のアレンジャーを起用、ストリングスを含むフルオーケストラに、番組専属のバックヴォーカルグループまで抱えた豪華な内容で、BBCの力の入れようが伝わってきます。
 
そんな期待にダスティは見事に応えます。持ち歌より他人の歌をたくさん歌うという挑戦的な趣向もなんのその。モータウンからシャンソン(例のジャック・ブレルの曲)、ブロードウェイの最新ヒット曲からトラッド、ブロッサム・ディアリーが得意とするようなジャズ小唄まで、いいメロディ、という条件で選ばれた雑多な楽曲を汗もかかず歌いこなしてしまいます。その完成度たるやライブ映像だとはとても思えないほどで、どんな曲も自分のものにして完璧に歌い上げるのだからオドロキ。こういうのを無敵の状態というのでしょうか。
 
springfield01.jpgその反面、いわゆるエンターテイナーになりきれないでいるのも興味ぶかい。踊れるでなし、トークも苦手らしく、決められた口上を言うのがせいぜい。観客の万雷の喝采にもどう応えていいのかわからず、手を胸の前で組んで小さく礼をするのがやっと。どうやら大変にシャイな人柄、のようなのです。
 
しかし、歌となると別人に変身。バラードのストリングスにもアップテンポのビートにもすっと身を委ね、時に奔放に、時に細心の注意を払って声を重ねてゆきます。音楽の一部となる喜び、歌う喜びをここまで率直に「見せて」しまうシンガーは見た事がありません。かといってスターにありがちな自己陶酔はみじんもなく、そんな振舞いを禁じるストイックさすらも漂わせているのです。スターにもエンターテイナーにもなりきれない、しかし音楽に対してだけはどこまでも貪欲に、そして誠実でありたい—そんな真摯な姿勢には、大げさに聞こえるかもしれませんが感動すら覚えます。
 
翌1968年にはアメリカ深南部へ乗り込み、ホワイト・ソウルの金字塔的アルバム『Dusty In Memphis』を製作。しかし移り気な世の中はまたたくまにダスティを過去の物にしてしまいました。享年59歳、セクシュアリティやドラッグ等の問題のせいで波風の耐えない短い人生でしたが、後に残った音楽は今でも傾聴に値するものです。お気に入りの持ち歌 ”Some of Your lovin’” で「私はよくばりじゃないわ、少しでいいからあなたの愛を分けてちょうだい」と歌ったダスティ。スターとして栄光を手にした時代は決して長くはありませんでしたが、彼女が真摯に追い求め作り上げた音楽は今も輝きを失っていません。


Dusty Springfield - Some of Your lovin’
ライヴ・アット・BBC / ダスティ・スプリングフィールド(DVD)

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2010年03月15日

素人名人会談(2) DEXTER GORDON

アワ・マン・イン・パリ次回を待たれい、わっぱっ、と捨て台詞を吐きながら先回を中途でうっちゃった感のある素人名人会談、第2回の季節がめぐってきました。100回記念号まで残りあと98回を数えるのみ、ようやく20人の片手で足りるぐらいにまで漕ぎつけることができました。管理人さんのはからいでROUND MIDNIGHTへの試聴リンクもアクセスでき、マイルスもスマイル(今日のあたし冴えてるわ、いや実際こんなアルバムあるんです)。ところでアルバムタイトルがROUND ABOUT MIDNIGHT、曲のタイトルがROUND MIDNIGHTと微妙に変えているのはわけがあるのかなあ。版権なんかな。ルイ・ヴィトンがルイ・ヴュイトンなんかな。この曲、セロニアス・モンクって変な名前の変なリズムを奏でる、有名なジャズピアニストの作品なんだけど、いやっ、この人、スーツ着てるのにトルコ人がかぶるような帽子かぶってはるわ、なんでってところが最強に変。そんなんいうたらあかん。うちはうち、人は人。ともかく、試聴してくれました?まだの人、曲名どおりに、深夜みんなが寝静まった頃しずしずと聴いてみて。

雰囲気たっぷりです。やっぱ、帝王マイルス。ミュートトランペット(らっぱの朝顔部分にお椀をつけて音を弱めたもの)が、五臓六腑まで「マイルス寒いよ」BY谷川俊太郎です。ヅラかぶらんでも、マイルス、ええもんはええ、髪の毛気にせんとき。ちなみにモンクはこれに参加してません。それについておもしろいエピソードがあって…こらっエエ加減にせいスッポンの腐ったの、フレンチはどこいったんじゃ。尻子玉抜くぞ。アンパーンチするぞ。すわ、一大事。おとろし。じつはこれにあやかった同名のフランス映画があるんですよ、兄さん。

往年のアメリカ黒人ジャズプレイヤーと、このおっさんを敬愛するフランス人青年との交流を軸にストーリーが展開されていくんです。でもこの映画、伝記映画でもあるんです。お話では主人公はじいさんのサックス奏者になっています。この人、デクスター・ゴードンといって、ものほんのジャズプレイヤーでその道では大御所です。おまけにデカい。ついでにあだ名がデックス。デカいデックス。デラックスデックス。もう没しています。このじいさんのモデルのひとりが、神経病みのバド・パウエルっていうピアニスト。やっぱりとうの昔に鬼籍に入ってこの世にいません。なんかややこしい。モデルも役者もジャズメンやったら、一緒にでればよかったのにね。サックスとピアノやし、なんかジャズできたんやろうね。よういうてくれはった、もう一人の私、おおきに、やっぱべっぴんさんやな。ほなら、それを叶えてくれるこの一枚。

OUR MAN IN PARIS BY DEXTER GORDONで、どや。おまけにパリでのものなんで、フレンチ満開ネットになんとか貢献できます。これ、1960年代の録音です。その当時ですら、斜陽がかったヴェテランの二人。さぞ「枯葉散る白いテラスの午後3時」みたいにしんみりしてるんでしょうねとなると、ちっちっちっ、そいつは早合点だぜマドモアゼル。ぜんぜん。熱い熱い。パウエルはソロでわーわー叫んでるし、デックスは音が太いし。なにしろテナーサックスは音域が広く低音部分の懐の深さが魅力のひとつなんですが、テクニック重視だと、高音に偏って煮込みの足らんスジ肉のようにゴリゴリする。それやったらひとつ高域のアルトにすればええねん。その点、デックスはのほほんしながら軽く熱燗2合ほどひっかけた調子で、酔いを楽しむかのようにちょっとリズムとずれているところがかわいい。よくも悪くもこんな音色だすのは他にいません。よろしゅう試聴してみて。

ということで最後に今回の一句、「音色も聴いてください」(すんごい字足らず、って季語は?)。では十月十日後に。

Our Man in Paris
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Dexter Gordon
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木魚

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posted by cyberbloom at 14:47| Comment(0) | JAZZ & BOSSA NOVA | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月13日

RADIO HEAD "KID A"

KidA.jpg映画に使われていた音楽が、その映画と同じくらい、あるいはそれ以上に強い印象を与えた、というご経験はないでしょうか。

ある時。ベトナムに暮らす貧しい姉弟の悲劇を描いたある映画を観ていると、これから身を売ろうとする姉が客を待っているディスコで、英語の曲がかかっていました。切ないメロディーとヴォーカル、そしてその甘さを切り裂くような激しいギターのカッティングがときおり響くその曲は、その映画が当時まだよく知らなかったトラン・アン・ユン監督の「シクロ」という作品であることがわかっても、誰の何の曲なのかわからぬままでした。

またある時。キャメロン・クロウ監督の「バニラ・スカイ」の冒頭で主演のトム・クルーズが目覚める場面で、"Open your eyes" というフレーズとともに不思議な曲が流れてきました。その直後に続く誰もいないニューヨークの街を映した非現実的な場面とともに、(映画自体はそれほど面白いとは思わなかったけれども)この音楽は記憶に強く残りました。しかしこの曲はオリジナルサントラだと思っていたので、あえて深く作曲者だとかを追求することはありませんでした。

そしてまたある時。村上春樹の『海辺のカフカ』を読んだ後で、カフカ少年が闇の中で聴いていた音楽が知りたくなり、この実在するロック・グループのアルバムを探しだしてプレーヤーにかけたとき、スピーカーから流れてきた最初の音は、「バニラ・スカイ」のあの曲でした。そしてどんどんこのバンドの曲を聴いていくうちに、「シクロ」で気になっていた曲が、彼らの大ヒット曲 "Creep" であることもわかったのです。

イギリスのロックに詳しい方なら、彼らとは現在イギリスで最も実力あるバンドのひとつ、 Radiohead のことだとすぐおわかりでしょう。私は10代の頃からUK音楽に親しんできましたが、このバンドがメジャーになりはじめた1992〜3年頃は、ちょうど新しい音楽をほとんど聴かなかった時期にあたり、(名前ぐらいは聞いたことがあったけれど)彼らのこと、つまり "Creep" で一挙にブレイクし、逆にそのための重圧に押しつぶされそうになりながら、"OK Computer"、"Kid A"(注1)といった90年代のロック史に不可欠なアルバムを苦しみつつ発表しつづけてきたということ、など全く知りませんでした。

その後彼らの曲やこれまでの歩みを知るにつれて、レディオヘッドは自分にとってとても重要な存在となりました。聴くたびに胸を打たれる美しく重みのある旋律と歌詞、常に実験精神を忘れない姿勢、ヴォーカルのトム・ヨークをはじめメンバーの人となり、など彼らの魅力を語れば切りがないですが、音楽的な情報源とは別なところから知ったこともあり、ほかの好きな人々とは違う特異な位置を占めるようになりました。彼らの曲を聴くときは、しばしばその曲が引用された映画(注2)や小説、また彼らがコラボレートしたアーティストたちの作品が浮かんできます。つまり、私にとってレディオヘッドの音楽は、分野を問わず他の作品やアーティストへとつながる中継地のような存在でもあるのです。


注1:写真中。村上春樹さんはカフカ少年が聴いていたのはおそらくこのアルバムだと述べています。

注2:最近のフランス映画では、cyberbloom さんのエントリーでも扱われていたセドリック・クラピッシュ監督の「スパニッシュ・アパートメント」で "No Surprises" が聴けます。

Radiohead - Creep
Radiohead - No Surprises



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posted by cyberbloom at 23:30| Comment(0) | UK ROCK '80-'90 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月12日

Charlotte Gainsbourg "5:55"

charlotte.jpgセルジュ・ゲンズブールといえば、フレンチ・ポップスを語る上では避けられない大御所。みずから歌うのはもちろんのこと、ブリジット・バルドー、ジャンヌ・モロー、そしてジェーン・バーキンなど数々の女優たちを歌わせては、彼女たちの新たな魅力を世に知らしめました(ついでに浮き名を流しちゃったりもしてました)。ゲンズブール・プロデュースの名盤はいろいろあれど、私がいちばん好きなのはバーキンとの間の娘、シャルロットが15歳のときに出した「シャルロット・フォーエヴァー」。これはセルジュが自分と彼女を主演(おまけに親子という設定)にして監督した同タイトルの映画のサントラで、映画もアルバムも、父と娘というには濃厚すぎる関係を描いたかなりヤバーイ内容だったんですが、それをサラリと表現するシャルロットは、別段いやらしい感じもせず、不思議な雰囲気のある女の子だなあと思っていました。にしても、自分の父親とデュエットして、 "Amour de ma vie" と語りかけるなんて、日本人ではなかなかできませんな〜。


セルジュはその後もスキャンダラスな人生を歩みますが、シャルロットは父親に対して愛情と尊敬を失うことはありませんでした。「フォーエヴァー」以降、シャルロットがマイクの前に立つことはなく、91年にセルジュが亡くなったときは相当ショックだったようで、彼女の歌声は永遠に聞かれないかと思われました。

それから5年ののち、「ラブ etc.」(1996)という映画のなかで彼女が1曲だけ披露してくれたことは嬉しい驚きでした(いい曲でした)。それでも彼女が本格的に歌うことはないだろう、と思っていたら、なんとここへきて20年ぶりに新アルバムが出るというニュースが。それも映画とタイアップしたものではないオリジナルもので、バックにフランスの2人組エールが、さらにプロデュースにレディオヘッドも手がけるナイジェル・ゴドリッチがつくという、私のツボをおさえまくった人選!早速先日発売されたこのアルバム「5:55」を手に入れてまいりました。


1曲目から、エールとすぐ分かる気怠い音に、シャルロットのはかなげなヴォーカルが重なり、「フォーエヴァー」のときとはまた違う彼女の一面を発見できます。大人っぽくなった彼女の声(当たり前か)は、ちょっとお母さんのジェーンを思い出させるときもあります。エールの2人も、彼女の声の魅力を損なわない、じつに「いい仕事」をしていて、両者のファンの期待を裏切らない好アルバムです。


“5:55”
“5:55”
posted with amazlet on 06.12.01
シャルロット・ゲンズブール
ワーナーミュージック・ジャパン (2006/11/08)
おすすめ度の平均: 5.0
5 いい感じです
5 歌姫と円卓の騎士




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ラベル:gainsbourg
posted by cyberbloom at 18:54| Comment(0) | FRENCH POP | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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