2013年03月11日

"Lys & Love" Laurent Voulzy

ロラン・ヴルズィーの才能は紛れもない。現存するポップソングメーカーのなかでは、世界的に見ても有数の存在と言っていいだろう。だが残念ながら、彼は本当に仕事をしない人(あるいは仕事が遅い人)である。オリジナルアルバムは、1979年の Le Cœur grenadine から前作の April まで4枚だけ。その April が出たのも10年前の2001年。発表当時そのすばらしい出来映えに感動しながら、次に新作にお目にかかれるのはまあ10年後くらいだろうと思ったのを思い出すが、実際に10年経った2011年の11月末、やっと新作オリジナルアルバム Lys&Love (リス&ラヴ)がリリースされた。大急ぎで取り寄せて聞いてみたが、これまでのヴルズィーとはずいぶん違ったサウンドになっていた。

ロックバンドのフォーマットは完全に姿を消し、彼の持ち味であったきらびやかなポップセンスも後退し、そのかわりシンセによる「エレクトロ色」と、教会音楽風のコーラス(ヴァンセンヌ城の主塔で録音されたらしい)などに見られる「中世趣味」が前面に出た作品となっている。最初は「あれ?」と思ったが、通して聞くとなかなかの傑作だということが分かった。内容的にも、時空(中世―現代、英―仏―イスラーム世界)を超えた愛をめぐる壮大なコンセプトアルバムである。ポップというより「プログレ」の範疇で語るべき作品という気さえするほどだ...。とはいえ、ポップの名工にして稀代のメロディメーカーであるヴルズィーの美質は失われてはいない。とりわけ、シングルカットされた Jeanne (ジャンヌ)と、ロジャー・ダルトリー Roger Daltrey がヴォーカルで参加している Ma seule amour (我が唯一の愛)の2曲は、天上的な美しさの、宝石のような佳品である。

私は生きているあいだにあと何枚のヴルズィーの新作アルバムに出会うことが出来るのか。Lys&Love が最後の出会いにならないことを心から願う。

‘Jeanne’ http://youtu.be/el0RwzHu7cw

Lys & Love
Lys & Love
posted with amazlet at 13.02.05
Laurent Voulzy
Columbia Europe (2012-05-15)
売り上げランキング: 158,573


MANCHOT AUBERGINE

人気ブログランキングへ
↑クリックお願いします
posted by cyberbloom at 22:21| Comment(0) | VARIETES FRANCAISES | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月10日

Taisez moi / Didier Wampas

Taisez moiレ・ヴァンパス les Wampas を率いて28年。筋金入りのパンク、ディディエ・ヴァンパス。パリ交通公団の技術職員として長年働き続ける、尊敬すべき労働者ロッカー。Taisez moi (テゼ・モワ)は、彼の初ソロアルバム(タイトルは「オレを黙らせろ」という意味に解していいと思うが、フランス語の用法としては間違ったもの(のはず))。泣かせる傑作だ。60年代風バンドサウンドに乗せて、辛辣なのかふざけているだけなのかよくわからない、いつもながらの歌詞を飄々と歌う。レ・ヴァンパスのときとくらべいくぶんアコースティック寄りのバックの音のおかげで、ヴォーカルもリラックスした感じに聞こえ、肩の力の抜けた作品になっている。

収録曲のなかで一番おもしろかったのは Chanteur de droite (右派の歌手)という曲。ミシェル・サルドゥ Michel Sardou(右派歌手の超大物)をモデルとし、この歌手が左派から忌み嫌われる現実を批判的に語り、同時に、売れるため左派にすり寄る凡百の歌手たちを揶揄している(あるインタビューによれば、ディディエは左派の集会でわざわざサルドゥの歌をアカペラで歌い、ブーイングを浴びたらしい。そしてそれをきっかけとしてこの曲を構想したらしい)。党派性とは無縁のところですべての気に食わぬものに攻撃を仕掛けてゆく彼の子供っぽい、しかし自由な精神が発揮された曲だと思う。他にも La propriété c'est du vol (所有は泥棒だ)とか Punk Ouvrier (労働者パンク)といった痛快な曲が満載。最後の Ainsi parlait Didier Wampas (ディディエ・ヴァンパスかく語りき)では、オレを黙らせた方がいい、でないとこれからも陰険にふるまっていろんなことに文句を言い続けるぜ、と堂々と宣言して去っていく...。

今後彼が成熟して大人の歌手に変身するようなことは間違ってもないだろう。死ぬまで、語の本来的な意味での「パンク」であり続けてくれることと思う。




MANCHOT AUBERGINE

人気ブログランキングへ
↑ライターたちの励みになりますので、ぜひ1票=クリックお願いします!

FBN22.png
posted by cyberbloom at 22:32| Comment(0) | FRENCH ROCK | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。