マイク・オールドフィールドはプログレッシブ・ロックの範疇に入れられることが多いが、ひとりであらゆる楽器を演奏して、ダビングを重ねながら作品を作り上げる元祖多重録音ミュージシャンである。アメリカではニューエイジ系の先駆者として数えられているようだ。彼の3枚目のアルバム、「オマドーン」にはタイトル曲一曲しか入っていない。CDではPart 1 Part 2 と2楽章に分かれているが、もとはLP盤のA面とB面だった。
このアルバムはケルト音楽の最も強い影響下にあって、イラン・パイプ uilleann pipes というアイルランドのバグパイプが使われている。このアルバムは2枚目と同じくHergest Ridge(ハージェスト・リッジ)で録音されている。そこはマイクが住んでいたヒアフォードシャーとウェールズの境にある丘の名前で、2枚目のアルバムのタイトルにもなっている。マイクはチューブラベルズの成功のあと、人の目を避けて田舎に引きこもっていたのだった。
ジャケットにも写しだされている優しい目をした内向的な青年の隠遁生活が伝わってくるような、途切れのない数十分の音の織物だ。ワーズワースの詩を髣髴とさせるような牧歌的な風景が目の前に広がる…雪解けの冷たい水が流れる小川を渡り、薄暗い森を抜け、突然開ける草原を横切って、どんどん歩き続ける…
アコースティックな楽器の類だけでなく、エレクトリック・ギターも使われているが、音色がうまく溶け込んでいてあまりエレクトリックな感じがしない。それでいて情熱をひたすら内側に向ける心の動きを直接映し出すようにエモーショナルで、じわじわと聴く者の魂を高揚させていく。ミニマルなアフリカン・ドラムとも絶妙に絡んでいて、それらが生み出す土着的なグルーブは土の下から萌え出る春の胎動のようだ。
広大な平原でひとり佇み、強風に流されていく雲を見上げているような2枚目の「ハージェスト・リッジ」も甲乙つけがたいアルバムである。つまり3部作まとめておすすめ。
cyberbloom
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